最近のこと

 最近のこと①信頼できる人から映画を勧められて、久しぶりに映画館に観に行った。私が人から勧められた作品をすぐに観るなんてかなりめずらしいことで、自分でも異常事態だなと思う。きっと淋しいのだ。何しろ普段は、借りた本を2年後に返せばいいかなという塩梅である。めずらしいついでに、観にいったその日は偶然にもなんちゃらデーで、普段より安い料金で鑑賞できた。しかも一番いい席!券売機でチケットを購入している段階から、すでに私は幸福だった。

 しかし、映画は応えた。とても良い作品だったのだけれど、故に応えた。鑑賞後ひとりであることが辛い、私にとってはそういう種類の映画だった。誰かに抱きしめてほしかったし、抱きしめたかったが、明日も仕事である私は素直に家に帰り、早めに眠った。挙句、人から甘やかされる夢を3本もみて起きた。まったく情けない。

 最近のこと②財布が欲しい。ピンと伸びたお札が好きなので、できれば流行に逆らって長財布を持ちたいと定期的に思うが、流行りのブランドはミニウォレットばかりを展開させるので、長財布を選ぼうとするとどうしても無難なデザインになる。(つまらない、せっかくの小物なのに)加えて、私の持っている鞄は大抵かなり小さいので、今更長財布を持つとなるとほとんどの鞄が使えなくなる。これが一番の難点だ。今のところ、二つ折りで妥協しようかな(現在は三つ折りを使っている。会計のたびに三つ折りになって出てくる紙幣が、かなり嫌)と考えているが、二つ折りの財布に絞ると種類はかなり減り、依然として財布探しは難航している。

 最近のこと③このあいだの休日、大人になってからはじめてちゃんと絵を描いた。ここに言う「ちゃんと」というのは、つまり絵の具を使ったってことだ。数年前、色にハマっていた(色という概念を愛していた)頃に買った絵の具がうちにはあって、当時はそれでいろいろな色を作って遊んでいたのだけれど、絵を描くのははじめてだった。デッサンの基礎も絵心も待ち合わせていない私は、ひとまず丘を描き、そこに一本木を描いた。さるすべりの木のつもりで描いたが、別になんてことのない木になった。でも、指で絵の具を塗り広げるのは楽しかったし、緑や黄色や桃色やを合わせながら、陽の差す春の丘を描くのは楽しかった。絵を描くって、精神にとてもいい作業だな、としみじみ思った。私は飽きっぽいので、この頃は他にもいろんなことをやっている。ピアノを弾いたり、ストレッチやヨガをしたり、義務教育の理科数学をやってみたり、小学校の授業みたいである。とりあえず何かをやっていれば、いずれローテーションで2回目が回ってくるだろう、という算段だ。大人になってから小学校の授業みたいなことを真剣にやるのは、けっこう楽しい。

 最近のこと④旅がしたい。友部正人さんの「どうして旅に出なかったんだ」という歌を、このあいだFULL OF LOVE(旅先で出会ったメンバーで結成されたバンド)がカバーしていて、実際にさまざまな旅をしてきたであろうこの人たちに「どうして旅に出なかったんだ、坊や」とくり返し歌われると、安直な私は今すぐ旅に出なければという気持ちになるのだった。元々、今年は旅をすると決めていた。しかし考えてみれば、私はライブの遠征以外で一人で寝泊まりをしたことがない。新幹線に乗ったことは何度もあるが、行く先にはいつも私を待っていてくれる人や、目的があった。明確な目的や落ち合う人のいる遠征はただの遠征であり旅ではないので、実質はじめての一人旅ということになる。一人旅!その自由と孤独を思うだけでどきどきする。駅のホームを出ても私を待つ人はおらず、私はきっとトイレで化粧直しをすることもない。何時からどこへ行ってもいいし、いつ休んでも構わない。旅先に住む知り合いとは会っても会わなくてもいい(たぶん会わない)。旅だから、駅弁とか食べちゃおうかな。ゲストハウスって実際どんなところだろうか。知らない街のなんてことのない本屋が好きだから、たくさん寄りたい。その街のバーにも行きたい。

 旅をしたことがない私は旅についての一切を知らないが、先人たちの言葉から、「若く、お金のないうちにしかできない旅」があることはなんとなく知っている。そうなのだろうなとも思う。旅がしたい。若く、お金のないうちに。